「昼休み」
「今日の世界史、難しかったよねー」
「ホント、あたしなんかさっぱりわかんなかったよ」
「そっかな?私はそれほどでもなかったんだけど……」
「かりんはいいわよ。優等生だから」
「そうよね。あたしなんかさ、授業の内容チンプンカンプンだから先生の声が子守歌のように聞こえちゃって」
「確かに……あの先生の声って聞いてると、なんだか眠くなるような……」
「やっぱりそう思う!?そうよね。まったく、教師なんかしてないでさっさとベビーシッターにでも転職しちゃえばいいのよ」
「あはは。それ、いいかも。そう言えば眠いって言えば、今度の小松未森の新曲も、なんだか子守歌のような曲なのよね」
「え?そうなの?」
「私も聞いたことないけど、そうなんだ?」
「二人とも流行に疎いなー。そんなことじゃ、時代の流れに乗り遅れちゃうぞ?」
「ご、ごめん……これからは流行の波に乗れるように努力してみる」
「こら、かりん。また謝った。悪い癖よ?」
「そうよ。もっとビシッとしなくちゃ」
「ご、ごめん……今度からは気をつけるようにするね……って、またごめんって言っちゃったね」
3人は顔を見合わせて、あははと笑った。
聖遼学園の学食は昼休みになると昼食を求めて生徒が殺到する。
そのため学食はこの時間になるときまって喧騒な雰囲気に包まれていた。
そんなところへ、友人に誘われたかりんは学食へとやってきた。
そして楽しく談笑しながら食事を取っているのである。
友人と話す時のかりんは、騎士としての面影はなく、どこにでもいる普通の女の子であった。
話す話題と言えば、授業のことや今流行のこと、最近体験したことや恋の噂などたわいもないことばかりだったりする。
「そういえばさぁ、かりん。最近よく一緒にいる彼って、誰なの?ひょっとして、彼氏とか?」
突然友達からこう言われたかりんは、食べていたスパゲッティが喉につまり、思わずむせてしまった。
その様子を見た2人は互いに顔を見合わせると興味津々と言った様子でかりんを見た。
「やっぱりそうなんだ!!隅に置けませんなぁ、かりんさん。え?このこのぉ」
「かりんもやるじゃない!先輩をゲットするなんてさ」
「そそそ、そんなんじゃないよー!!私と牧村さんは決してそんな関係じゃ……」
「聞いた聞いた?『牧村さん』だって!!」
「先輩って呼ばないところに、2人の交際の進展具合が窺い知れるわね」
「も、もぅ!!違うんだってば!!」
かりんは恥ずかしそうに顔を赤くしながら否定したが、まったく効果はない。
「照れない照れない。恋のひとつやふたつしない方がおかしいって」
「そうよねぇ。あたしもかりんみたいにステキな先輩ゲットしたいなぁ」
「だ、だから!!」
「あ、でもかりん、あなた大丈夫?確か物凄く料理が苦手だったじゃない」
「確かに……それじゃあ彼氏から嫌われちゃうぞ?」
「うっ……」
かりんはそう言われて反論できなかった。
かりんの料理が凶器に匹敵すると言うのを二人は知っていた。
そしてかりんもそれを承知していたのでなにも言い返せなかったのである。
「ほらほら、元気だしなさいよ」
そんな落ちこんだ表情を見せるかりんの肩を友達がポンポンと叩いた。
「料理の練習だったら、私達も協力してあげるから」
「そうよ。手料理の愛妻弁当で彼氏のハートを離さないのは基本中の基本だから、しっかり上達してもらわないと」
「も、もぅ……知らないっ!」
かりんはプイッとそっぽを向いた。
もちろん本気で怒ってるわけではない。2人もそのことは十分承知している。
そしてかりんがこのような素振りを見せたとき、2人はそれ以上追及しようとはしなかった。
「ところで、話は変わるけどさ、今度の体育……」
「持久走なんだよね……やだなぁ。かりんはどう?」
「わ、私?うーん……走るのは好きだから……」
「こら、こーゆー時は『私も嫌い』って話を合わせなくちゃダメでしょ?」
「ホントかりんは真面目なんだから。でも確かに楽しいよね。歩いちゃいけないっていう決まりはないし」
「先生に怒られちゃいますよ?」
「気にしない気にしない」
「そうだって。バレたらその時はその時。かりんも一緒に歩くのよ?」
「わ、私も!?」
そして3人は楽しい談笑を続けながら昼休みの時間を過ごしていくのであった。
(おわり)